ぶら下がり日誌~ボルダラーへの道~

釣りときどきクライミング、そして父になる

うわごと

Star Eyes

「予言にあった星のアザをもつ男、とは主のことに違いない」と見者(ヴォワイヤン)は言った。 居並ぶ住人たちはどよめいた。「では彼が救い主なのだな?」と長老らしき男が言った。見者はおごそかに頷いた。 「冗談じゃない」と僕は言った。「これはただの日…

Star Ocean

「おい君、背中にヒトデがついてるぜ」そうペングィンは言った。 「このままじゃヒトデ型に日焼けしちまうぞ」 我々は次の街に向かって地上数万メートルの空を飛んでいるところだった。雨は既に上がり、雲もどこかに行ってしまって、太陽が我々の背中を焦が…

静かの海

「雨は旅の合図だ」とペングィンは言った。「我々は風になって次の街へ向かう」 「何ていう街だい?」 「次の街に名前はない」とペングィンは言った。 果たしてペンギンが空を飛べるものなのかどうか、僕は訝んだ。それを察したかのようにペングィンが言った…

Living in a Pastime Paradise

何もかもから遠く離れて、新たに始めたと思っているのに、多くのことは意に反して記憶から消えない。 記憶は改変される。記憶は作られる。それは単なるデータではなく、生きていく中で我々の体験をフィードバックし、その時々で新たな光をあてられ、別な意味…

The Ghetto’s Got Me Trapped

邦題『何てこったい』。・・なんてこったい。

くまとたたかう6

宗教家は煙山に着くと、煙草のけむりをいっぱいに吐いて、医者の来るのを待ちました。医者はといえば、突然に視界をふさがれたうえ、煙をしこたま吸い込んだので、動くのもやっとの有様でした。 突然、医者の肺の中から声がしました。 「右だ。右へ寄りたま…

くまとたたかう2.5

「行こう、行こう」と森のみんなが言いました。音楽家は森の詩に乗って旅出ちました。医者はわけのわからぬ様子でその場に突っ立ち、宗教家は荘厳な面持ちで旅路の無事を祈りました。 「なんだいまのは? どうなったんだ?」医者が言いました。 「魂が天に召…

くまとたたかう5

医者は日ごろの不摂生がたたってか、煙を吸い込みすぎたせいで道半ばにして倒れ、宗教家は呼吸に集中していたためにそれに気づかず、もやのなかを走り続けました。 そのうちにおぼろげな山が近づいてきたように感じたので、宗教家は叫びました。 「着いたぞ…

くまとたたかう4

どうやら現地人を撒いた二人はなおも走り続けました。医者は息も絶え絶えになってへたり込みました。 「もう走れない」そう医者がいいました。「腓腹筋が攣ってしまう。脾臓も辛いし、肺も悲鳴を上げてる。限界だ」 「もう少し先まで行こう」宗教家が言いま…

くまとたたかう3

音楽家は現地人の槍に刺されて、医者と宗教家の手当のかいなく息を引き取りました。しばらくはその場の荘厳な空気に圧倒されていた現地人たちも、もぞもぞしはじめました。医者がいいました。 「この機に乗じて逃げるべきだ。あの人数に襲い掛かられたら今度…

くまとたたかう2

現地人のある者は現地の現実(レアル)事務所とでもいうべき場所で働いている。 *** 「この、ヤサグレ国家の犬どもめ!」現地人たちは口々に叫びながら、持っていた石槍を三人に投げつけました。一本の槍が深々と音楽家の右肩を貫きました。 「アイタッ!」…

くまとたたかう

音楽家はヴィオロンをポロンと爪弾きました。 「ダメだろうそんなことをしては」と医者がいいました。 「いいのだよ」音楽家はこたえました。「どのみち弓もないんだ」 するとさっきまで押し黙っていた宗教家がいいました。 「あの山の遠くに、白く輝くそれ…

Second-Nature

こころを悲しみに支配させてはいけない、そうセスナの神様は言った。僕が「どうしてですか」と尋ねると、神様は悲しそうな顔で感情のデコレーションを嘆いた。 神の演説に傾ける耳はくさって取れてしまっていたから、僕はただ神様の表情から事態を推測するし…

傳翁

「今日のランチひとつ」 「じゃあ俺は……何これ、昨日のランチ、なんてのがあるよ」 「あ、それは昨日の今日のランチです」 「今日作ってんだよね」 「もちろんです」 「じゃー俺昨日のランチ」 「ん、次は俺か…俺はこの明日のランチってやつにしようかな」 …

タルホ4

何かいわくがありそうで 別にこれといった何物でもない そんなものをもてあそんでいたら フイに後ろから小突かれた オヤ振り向くと誰も見えなかった 向き直るとまたポカリとやられた も一度振り返るとやはり誰も見えない あごヒゲをさすりながら考えこんでい…

キリマン

午前中の事務所でインスタント・コーヒーを飲みながら嘘の効用について考える。たのしく嘘をつこう、宣伝カーに乗った背広姿の小太りの男が白い手袋を振って、拡声器でにこやかに語りを披露しつつ通り過ぎて行った。 頭の中が大量の糸ミミズに支配されている…

機械化の進み方2

どこかしら前回の続き。 1 人が集まる 2 組織ができる 3 組織体の洗練、業務の細分化 4 末端の人間が機械化 5 末端の人間とかかわるエンドユーザーが機械化 6 4、5とかかわるすべての人間の機械化 ※機械化のスピードは幼児と老人においては極端に遅くなる。 …

タルホ3

その昔、チャーリー・パーカーのブロウ一発で聴衆が飛べた、そんな時代があった。本当の話だ。 *** コーヒー・ショップで外をぼんやりながめていると すてきに光る青いものが通った それッと飛び出して追いかけたら すぐに見うしなった あきらめて戻ろう…

タルホ2

鳥社会には疑いなく階級が存在する。二羽以上の鳥がいればそこには必ず上下関係があるものだ。 *** 木曜の雨の昼下がり 地方の田舎で高速バスに揺られて外を見ていたら 大きな黄色い看板に NO RICE NO LIFEと書かれていた おどろいてよく見ようとしたら …

玄海

【複雑回帰】 ミニマリズムの反動として1970年代の一時期に提唱された思想運動。ドイツにおけるシュトルム・ウント・ドランク(疾風怒濤)を範とし、やがて独自の理論と訓練法を持つようになったが、その体系自体が複雑すぎたため、一般に普及するまでには至…

タルホ

通り雨に降られてハンバーガーショップに入ったら テーブル席にベース・ギターを背負った雨がいた 向かいに座ってどうしたのかとたずねると 雨宿り中だという 考え込んでコーヒーを啜っていたら 雨が消えていた ベース・ギターが残っていた 人目を気にしてそ…

宙水

人々は影のようにぞろぞろと道をさまよい歩き、一人一人はばらばらで、ただ数が多いというだけのようでもあり、得体の知れぬ力がたちこめているようでもある。 中心のない空虚の充満する街を、僕はのろのろとうろついてる。真夏の夜にビーチサンダルで歩道を…

独鈷

60年代のあるファッション雑誌にたしかこんな言葉があった。 「どこから手を出すのか、なんて考えてはいけない。自然であることを離れて純粋な美的造形物になる、美しいオブジェとして街中を歩きたい、そんな欲望を、モードがみたしてくれる」 *** 僕の脳…

砂がき

架空の本のあとがき。 *** やってまいりました。あとがきです。あとがきなんていったって、たいして書くことも思いつかねえな。何でもいいからさらけ出せって捩じ曲げられた記憶をかき回しても澱は澱のまま、何にも見えやせぬ。ま、しかし、それも仕方が…

風待ち

人気のない朝のコーヒー屋で、暇をつぶしていたのは『風街ろまん』である。『風街』の前にはカプチーノが置かれてある。たぶんカフェラテでも構わなかっただろう。『風街』は煙草に火をつけると、ゆっくりと、ふかく煙を吸った。 『風街』の肺には風穴が開い…

あもくん

森の近くの一軒家で囲炉裏にたき木をくべていると、引き戸を叩く者がある。こんな時間に誰だろう、そう思って「はい」と返事をしてみると、何故だか向こうもオウム返し。 「どちら様ですか」と尋ねたいところだったが、とりわけ寒い日でもあったし、どうせこ…

双方の岸より眺めての川

どこか遠い国で大水が起き、河川が増水して渡ることができなくなった。 三日や四日であれば慣れていた旅人たちであったが、この大水、一週間経っても十日経っても止む気配がない。はじめの勢いこそないものの、雨は一日中しとしと、しとしとと降り続けている…

ラスト・バウス

その週の火曜、僕は適当な理由をデッチ上げて休みを取ると、いつもの道を通って吉祥寺行きの電車に乗った。その筈だった。 とくに急いでいたわけではなかったし、おまけに起きたばかりで頭がぼんやりしていたから、とりあえずホームの電光掲示板だけを確認し…

猪熊

若者―助けてもらい、甘やかしてもらい、後押ししてもらい、引き立ててもらうことを絶えず要求する。 *** 探しものは何ですか、見つけにくいものですか、などと歌いながら、失くしてしまったものを探している。あまりにも長いあいだ探し続けたから―その間…

鬼哭啾々

(チャルメラの音、響く) 「ええ、毎度おなじみ、くず屋でございます。古い青春、いらない青春、ございましたら、お気軽に」 「こんなのでもいいかい?」 「へえ、もちろんで。さて、これは、何でございましょうな?」 「これ、「誰かが見落とした正義」な…