ぶら下がり日誌~ボルダラーへの道~

釣りときどき岩、そして

猪熊

 若者―助けてもらい、甘やかしてもらい、後押ししてもらい、引き立ててもらうことを絶えず要求する。

 

***

 

 探しものは何ですか、見つけにくいものですか、などと歌いながら、失くしてしまったものを探している。あまりにも長いあいだ探し続けたから―その間には探すのをやめていた期間も含まれている―、失くしたものが何であったのか、今ではもう、探していた当人にも思い出せなくなっている。

 

 つまった男は神様に相談することにした。

 

「そりゃ見つからんわ」神様はにべもなく言った。

 

(どうしてこの神様は関西弁なんだろう? それに、いったい何の神様なのだろう?)

 

 そう男は考えて、すると神様はいかにも神らしく男の考えを読んで、「お主が先刻買ってきた明石焼きの神だ」と指摘した。

 

 男は自分の胃袋に収まっている6個の明石焼きのことを考え、そんなところからどうして神が現前したのだろうと訝った。このまま明石焼きを消化してしまったら―、男はギクリとして、また神様がそれを引きとって言った。

 

「私は消えん。明石焼きの数だけ私は存在する」

 

「探しものを見つけるいい方法がある」そう神様は続けた。

 

「どんな方法です?」勢いこんで男は訊ねた。

 

「お主自身が明石焼きの神になるのだ」神は重々しく宣告した。

 

「主が体内の明石焼きを完全に消化する一瞬、主は明石焼きの神になる。その瞬間お前は神になっているから、探しものでも何でも見つけられる」

 

「その瞬間はどうしてわかるんです?」

 

「そこまでは知らん」

 

「もういいです。あなたに聞いたのが間違いだった」

 

 そう言うと男はやにわに右手を喉の奥に突っこみ、胃の中の明石焼きを盛大に吐き出して胃液まみれになったそれをぐしゃぐしゃに踏み潰した。

 

 明石焼きの神は悲しげな顔で虚空へと流れ去った。

 

(おしまい)