ぶら下がり日誌~ボルダラーへの道~

釣りときどきクライミング、そして父になる

Happier Than the Morning Sun

 久しぶりに戻ってきた街では、目的の場所の見当はついても詳細がつかめず、また窓口の時間も限られていたのでタクシーに乗って出かけた。

 

 車で通りすぎる景色は当然ながら昔と変わっていて、きっと速度を落とせばもっと違いが見えるだろうと考えながら運転手さんに「この辺も随分変わりましたね」などとクリシェを並べてみたところ、この運ちゃんは生まれも育ちも東京で、おまけにこの街の近くで少年時代を過ごしたというから、私などよりもっとこの街の歴史に詳しいのである。

 

 消えた映画館、セットバックした道路、建物はそのままにめまぐるしく入れ替わる店、店、店。駅前の会館は私の知らぬ間に取り壊されており、以前走っていた電車は地下五階に潜り、それを見越してか数年前に開通した別の地下鉄にノン・ストップでつながったという。

 

 地上から乗り継ぐ人々は当然ながら文句タラタラ、そういえば途中走った道路も高速が地下になったとのことで、地上は広く快適な空間になっていた。近頃は何でも地下に潜るのが流行っているようだけどその功罪をニュートンレベルで計量したらどうなるか、などと無意味な問いを考える。

 

 取り壊し中の建物は屋上がプラネタリウムになっていて、パンテオンという名の映画館があり、あとは三階に紀伊国屋三省堂のどちらかが入っていたと運ちゃんが言う。

 私の知らない建物の―すぐそばを通りながら景色として眺めつづけ、ついにそれと意識されなかったものの―内面、中味、素性、来歴、変遷、末路、そんなものを聞かされていると、せつないような悲しいような、何か取り返しのつかぬことをしてしまったような、淡青色の気持ちになる。