キリマン

 午前中の事務所でインスタント・コーヒーを飲みながら嘘の効用についてかんがえる。たのしく嘘をつこう、宣伝カーに乗った背広姿の小太りの男が白い手袋を振って、拡声器でにこやかに語りを披露しつつ通りすぎていった。

 

 頭のなかが大量の糸ミミズに支配されている。ちいさな子どもがそうするように、どぶに巣食う彼たちの群れに石を投げこんでみる。その石が嘘なんだ、と話はここからはじまる。

 

***

 

 11階の非常階段に坐って窓から外を眺めていたら、トイレットペーパーを小脇に抱えた清掃のオバチャンが上がってきて「たそがれてるんですか」と問う。

 

 「サボタージュしているだけです」と応じつつオバチャンのために扉をあけてあげる。彼女によると僕にはさいきん元気がないのだそうだ。

 

 「人生に深く絶望しているんです」そう僕が呟くと、オバチャンは「プラス思考、それだけでじゅうぶんです」といった。