「彼は英雄ですか?」
「においはあるな」
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モチベーションの源泉や、職業的良心の出所といったものについては、本人に訊ねても要領を得ないというのが通例である。ボルダリングにおいて、ある種の修羅にムーブを聞くのと同じだ。心技体の次元が違う場合、動きのイメージやアドバイスは、こちらがそれに共感することができないので、活用することができない。すなわち、こちらが聞く段階に至っていない。土俵に上がれていないのだ。
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仕事をしている分野にはそれほど興味はないのだが、仕事相手が困らないようにと考えている。それで実際に部署の誰よりも働いている。人事部経験があるので、所属する組織が年齢序列であると承知しており、給金と働きが相関しないことでモチベーションは下がっていると言いながら、それで仕事の質が落ちない。結果として若くしてライン管理職になっている。
仕事内容そのものには興味がないので、組織を良くする、一緒に仕事をしている周りの人間を快適にする、という方に関心が向かっている。
「別に職場で日がな一日エンピツを削って過ごしてもいいのだが、それだと不安になる」とその人は言う。仕事がないときに、することがなくなるのが嫌なのだ、と。組織にいれば、放っておいても仕事は降ってくる。仕事に追われていればひとまず安心である、と。
・・・やっぱりよくわからんな。それほど年も違わない筈なのだけど。