さぬきの夢

 誰もが自分の文脈に沿って暮らし始めていた。大抵の場合、それらはより大きなカテゴリに包含されてしまってはいたものの、大した問題にはならなかった。少なくとも表だって文句を言う者はいなかった。

 何かを言わんとする者には言えない理由があったし、言っても無駄だと考える者はその通り黙っていた。日々の暮らしに追われる者には文句をつける余裕がなかったし、気にとめない者はそのまま生き続けた。そのようにして世界は徐々に輝きを失っていった。

 

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 さて蓄財だ、ということで、ポイ活などしてみている。職業―ポイント獲得活動家、なんつって。ぜんぜん貯まりません。

 この調子だと、百円稼ぐのに数ヶ月かかりそうである。道端で小銭を拾った方が早い、と家人に文句をつけたところ、「ポイ活とはそういうものよ」というありがたい答えが返ってきた。たしかに、そうだねえ。

 

 しかしレシートのアプリにも驚いたが、移動そのものがお金になるとは、面白い時代になったものである。経済活動の本質を人とモノの移動と考えれば、自然なことのようにも思えるが、見方を変えれば、こういうビッグデータをうまく解析して、ビジネスの実践に生かせるような世の中になってきた、ということでもあるのかもしれない。

 

 何にせよ、こういうのは小市民にはべらぼうすぎて、実際何が起こっているのか、その内実まではうまくイメージできない。レシートアプリは購買データを売るのだろうから、まだ分かる気はするものの、移動系のポイ活アプリは、移動データをどんな風にビジネスに生かしているのか、いまいち想像がつかないんだよな。

 

 実際に使ってみたところ、アプリ内で動画を視聴させたり、関連商品に誘導することによって、利益を得ているような気配である。アプリ自体がこういうチリツモのビジネスモデルなのか、それとも移動データがけっこうな高額で売れるものなのか、少なくとも組み合わせないと成立しない、というのが現状なのだろう。

 

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 旅、観光、流通、言葉は何でもいい、とにかく人と物の移動のあり方が、日々変わってきていると感じる。テレワークでやりとりは全てデータ、というのと、事務所で紙の書類を送り合って、というのとでは、まるで違ってくるよな、そりゃ。

 

 人のフィジカルな移動が購買の契機になったり、陸運でも海運でもいい、流通がインフラ整備や設備投資や雇用を生んだり、そういうことが徐々に少なくなっていく、というよりは、あり方が変わってくるのだろう。相変わらずモノを運ぶことは重要であり続けるが、データに替わるものについては、その必要もなくなる。

 人の日常の移動が減れば、消費のあり方も変わって、それに応じたビジネスモデルが台頭する。そうしたことの繰り返しなのだろう。

 

 このご時世で、こうしたダイナミズムがどのような形に落ち着くのか、岩を登りながら魚を釣りながら、見届けてみたいと思う。

 

 

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