さてそれから春風秋雨、十年の時が流れました。
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トンネル。一直線に伸びる白色灯。通り過ぎる電車と、それが連れてくるつむじ曲がりの風。
外には細かい雨が降っているから、トンネルの出口は白くぼやけている。うすもやの中に電柱と高架が続いているのが見える。
何もかもが遠い。自分が自身から遠い。アナウンスは明瞭な発声で電車の到着を告げているのに、置き忘れてきたように感じる。何か精神的なものを。
盛夏だというのに台風の接近のせいでまるで6月のように蒸す。たぶんこんな日に出かけるべきではないのだ。傘もないのに。