映画の話10

 『動くな、死ね、甦れ!』(ヴィターリー・カネフスキー、1989年)

 

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 少年は生まれながらに疫病神で、「生まれてくる奴は数百万分の一という幸運をつかんでいるはずなのに自分はちっとも幸運じゃない」と嘆く。不幸の精霊が降りてきて、少年の周りで絶えず踊っている。どうも少年は生まれてくるために自身の運を使い切ってしまったようなのだ(というのは危うく堕ろされるところだったってわけ)。

 

 制御できぬ悪への傾斜、絶えざる反省、しかしどうしようもなく悪のすべり坂を落ちていく。守護天使ガリーヤは死に、母は病気に罹り、ガリーヤの妹もまた少年のもとを離れていく。少年は裏切ることを宿命づけられているかのようだ。そこから逃れようともがく少年。しかし岸に向かってどれだけ懸命に泳いでも、徐々に沖へと流されていく。

 

 ストーリーは緻密に構成されず、各場面は滑らかにつながらず、撮り方も語り方もわりに八方破れなところがある。拭えぬ教訓色、二元論、キリスト教、罰、罪、救いそして浄化―飛び石を放るように喚起力あふれるカットがさし出される。

 

 過激(劇)な映画、と書いた次の瞬間に思いあたったのは、どうやらあのくらいが向こうの現実であって、デフォルメするつもりなどまるでないということなのだ。裸体、血、暴力、生の荒々しいイメージがそのまま千切っては投げ、千切っては投げされる。

 

 荒廃と混沌、汚穢、不浄、咎、臭気・・・朽ちているし腐っているし錆びているし薄汚れている。泥の中から金をつかみ出そうとする試み。汚物にまみれ雪にまみれ、人は簡単に泥まみれ濡れ鼠となり、鼠は簡単に火だるまと化し、豚は生きたまま腹をかっさばかれる。汚れに無頓着で無関心で、おそらくそれが自然だった時代の話。

 

 

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