Grapevine

 先日、久しぶりにお鮨屋さんに出かけたら、大将がいろいろの話をしてくれ、今昔の感に堪えないようだった。

 

―今の人は夢を見づらくなったね。昔は勉強がダメでも肉体が頑丈なら仕事がいっぱいあった。港の荷物なんて人間が運んでたんだから。100kgくらいの荷物背負ってね。ああやって重たいもの担いで運んでると、肩のあたりに毛が生えてくんだね。守ろうとすんのか知らないけど。肩もこう、肉が盛り上がってね。いやまあ物凄い重労働だけど、そのぶん金はもらえたよね。人の3倍、4倍はもらえた。今は機械化されちゃって、そういう意味では夢がなくなっちゃったやね。

 

―まあだいたい、長生きしたって仕方ないんだよ。昔はもっと寿命だって短かったんだよね。そんだけ労働して食べるものが雑穀入りの米と沢庵とそんなんでね、煙草は吸うわ酒は飲むわで、それは長生きできないよ。昔は酒も煙草も当たり前だったからね。とくに煙草は電車の中でも平気で吸って、床に捨てて踏み潰してたんだから。いまは煙草吸えるところがドンドンなくなっちゃって、煙草屋の前に灰皿置いちゃいけないっていうんだから、だったら煙草売らなきゃいいのにね。あんだけ税金とって煙草吸うのにコソコソしなきゃなんないなんてね。今は店だって分煙だなんだってね、あれは分かれてるけどやっぱり吸いにくいよね。何だか煙草吸うだけで犯罪を犯してるような気になってさ。

 

―大将は煙草吸うんですか?

 

―仕事中は吸わないよ。まあ何ていうか、そういう意味ではみんなスケールが小さくなっちゃった。だいたい長生きしたっていいことないよ。昔は地方だと病院なんていっても金の代わりに米とか酒とか持ってってね。もう殆ど物々交換だよね。そもそも皆なかなか病院行かないからね、ガマンしてね。来ても大抵手遅れになってから来るから、医者の方ももうどうしようもないんだね。昔は家で死ぬのが当たり前だったんだから。今はみんな病院で死ぬけど、だいたい病気とかしないで長生きできればいいけど、年寄りって病気したりするし、また病気にかかるとあれ食っちゃいけないこれしちゃいけないでね、身体も利かなかったらツマラないやね。家にいても邪魔にされてね、それで病院行くっていうんだから。あそこで薬もらってね、1日ずっといてあそこが痛いとかここが痛いとか、まあサロンみたいなもんだね。