置物のそれではなく生きて躍動する美、そのために心胆を練り上げる。美意識とはそういうものである。
***
久しぶりの電車はいい。昔からこの運ばれていく感覚が好きだ。電車のように黙って移されていく体の乗り物はとくに。
線路上は電車だけの世界である。車やバスとは違う。旅客機は単独で速くて自由だが、途中で勝手に降りられない。その点、電車は気が乗らなかったら途中下車すればいい。気楽である。おまけに酔いにくいし、言うことなしである。
移動が精神にもたらす影響というのは間違いなくあると思う。筆者の場合、中高5年間の電車通学が、自分の人格を少なからず決定づけたと思っている。
ローカル線の20代後半女性コンビの会話。
「座ったら?」
「座りい」
「ヒール履いとるけん、座りい」
「いい、いい」
結局2人とも座らない。
美意識が美質にまで昇華されてしまっている。傍目には奇異に映るかもしれないが、こういうのはもう国民性であるといっていい。
以上、定期連絡。