筆法

 あまりにまっとうであるがゆえに、現実には異端であり、あまりに確固としているがゆえに、例外として扱われている。いつでも、あまりまじめで、あまり正義で、あまり正直な人物などというものは、いくぶん滑稽なのかもしれない。Who’s there?

 

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 綴方メモ拾遺。向田邦子より3パターン抽出。

 

A

1 身近なものごとに抱いた感情をとりあげる。ネガティブなものがよい。「~は苦手」「~と感じてしまう」などと書いて共感をさそう。

 

2 つづいて、そのような感情をもった例をあげていく。まず一般的なエピソードをあげ、ついで体験を書く。

 

3 その感情について、いまの視点で絵解きする。「むかしはわからなかったが、いまはわかる」といったふうに。自嘲をまじえた失敗談のトーンで書く。さいごに小市民的感覚をよそおって最大公約数の賛同を得る。

 

B

1 「むかしはこうだった」から入る。

 

2 つづいて、それにまつわる失敗談を書く。

 

3 関連するエピソードを連想してあげていく。

 

4 最初にもどってきて、自嘲しつつ落とす。サゲは他人のことばを借りるかたちをとるのがよい。

 

C

1 上記の反対で、さいきんの体験から入る。「こういうことがあった、ちょっとかわったできごとで、ふだんはでてこない感情と出会った」というように書きすすめる。

 

2 1から連想して、むかしのエピソードをかく。失敗談にかぎる。あとは上とおなじ。あるいは連想したエピソードのなかで突出したものがあれば、それをさいごにもってきて、そのままサゲにする。

 

 

 総じて、名状しがたい、だれもが抱いたことはあるが名づけたことのない感情に、名前をつけていくのが天才的にうまかったひと、いわば焼肉のあたらしい部位をつぎつぎにみつけて確立したようなひと、それが向田邦子ではないかとおもう。

 

 なお、伊丹十三との共通点は含羞である。以上、連絡おわり。