映画

自由賦

「どちらも正しいから言い争うのよ」 ―サラ・マルコッチー(ピエトロ・ジェルミ『鉄道員』) *** 自由の特徴のひとつに権威への反抗があるとすれば、自分の意思で規律に自らを従わせるというのもあるだろう。いわゆる格率だが、それが個人から組織にまで…

Tobacco Road

煙草を吸うひとはバカか天才か気分屋かストレスフルな仕事をしているかのいずれかだ。では煙草を吸わないひとは、とふりかえって、ほとんど定義できないことに気がついた。 WHOの統計によると、煙草を吸うひとのIQは、吸わないひとにくらべて2、3たかいのだ…

灰は灰に、塵は塵に

プチ情報。スタジオジブリの短編作品『On Your Mark』がすごかった。戦慄した。 *** さいきんは本を買わないのでしなくなったが、この15年ちかく、気にいったページを破るのが習慣になっていた。さいしょは植草甚一のまねだったのだが、時間がたつうちに…

映画の話14

『さらば愛の言葉よ』(ジャン=リュック・ゴダール、2014年) *** 銀座でゴダールを観てきた。3Dである。眼鏡タイプと眼鏡の上からレンズだけ装着するのと二種類あって、レンズタイプは数百円で購入するようになっている。「メガネの上からメガネをかけ…

映画の話13

『GUNS&GOLD』(ジュリアス・エイバリー、2013年) *** 脱獄もの、クライム・アクション、『トレイン・スポッティング』、『天使の分け前』、あるいはライバル不在の『HEAT』。悪なのだがうまくやりおおせてしまう。悪事をはたらくのだが若者の成長物語…

映画の話12

『キャリー』(ブライアン・デ・パルマ、1976年) *** 相当な残酷映画ではあるものの、テーマが何だったかと言われるといまひとつ判然としない。ホラー映画と割り切ってしまえばビビらせたもの勝ちであるともいえるのだが、目立った恐怖シーンは最後の箇…

映画の話11

『自転車吐息』(園子温、1990年) *** 起こしてはならないものを起こしてしまっている。理性が脆弱な感情に負けてしまっている。 ウダウダを突き抜けるだけの力はない。ウダウダは解消されずに澱として沈み続けることであるし、また生きていくことはそれ…

映画の話10

『動くな、死ね、甦れ!』(ヴィターリー・カネフスキー、1989年) *** 少年は生まれながらに疫病神で、「生まれてくる奴は数百万分の一という幸運をつかんでいるはずなのに自分はちっとも幸運じゃない」と嘆く。不幸の精霊が降りてきて、少年の周りで絶え…

映画の話9

このところ、子どものためという名目で、ドラえもんのDVDをちょこちょこ集めている。子どもの頃はTVで見たり見なかったりで、覚えているものも少ないので、割に新鮮である。ドラえもんは90分尺に決まっているものなのか、知らないが、精神的体力のない身には…

映画の話8

『鉄コン筋クリート』(マイケル・アリアス、2006年) *** 映画とは何か、とか、主題は何か、などと考える必要なしにたのしめる作品。とにかく台詞まわしが最高にいい。 架空の町「宝町」を巡る物語、それは主人公シロとクロ―2人で1つ―の話であると同時に、…

映画の話7

幾多の違いを跳び越えて一瞬にしてつながる、それが芸術だ。 *** 『フォーエヴァー・モーツァルト』(ジャン=リュック・ゴダール、1996年) この映画にモーツァルト性があるとすればそれは気まぐれさだ。モチーフを発作的に取り扱って、どうなるかと思わ…

じゃけん

ときどき、香港映画、なかでもいわゆるカンフーものを無性に観たくなる時があって、それがどんな時かといったらこんな時だとうまく答えられない。 *** 思うに、カンフー映画の特性とは、観終わった途端に中身を忘れてしまう点にあって、それでもただ楽し…

映画の話6

先頃ようやく『パトレイバー』を観た。アッサリ節を曲げてDVDである。 数年前の秋だったか新作の話が盛り上がっていた記憶があり、たぶん連動企画であろうコンビニのワイド版が出回っていたので、改めて読んだりしたのだが、まあ何というかイマイチ乗りきれ…

映画の話5

『好色一代男』(1961年、監督:増村保造 主演:市川雷蔵) 与之助のこころの平穏はどこにあるのだろう。「おなごの喜ぶ顔をみる」「おなごのしあわせな様を見る」のが与之助の幸せであって、「おなごを笑顔にする」「おなごを喜ばせる」まではいいとしても…

映画の話3

近頃では映画を観てもすぐ中身を忘れてしまう。もうこれは根本的に脳が衰えているのである。 「歳月は知恵を生まず老残を増やす」などと言うように本当に年食うとロクなことがない。見方を変えるとこれは「尊敬できる老人が現れたら大切にした方がいい」とい…

映画の話2

急な誘いで『シン・ゴジラ』を観に行ってきた。ゴジラといったら松井かというくらいで、モスラもビオランテも脳裏をかすめないほど遠ざかっていたから、はっきり言って「忘れていた」とした方が近い。しかしながら今回フラットな気持ちで観てみたらかなり面…

映画の話3.5

007にイマイチ乗れなかったという話。 *** 初めて見たダニエル・クレイグのボンド、言いにくいけど何だかイメージでない。近年のボンドはB級スパイよりはシリアスなA級ヒーローを目指しているみたいだ。ハリウッド・ヒーロー化とでもいったらいいか。そう…

映画の話

DVDが売り出されたときのことはあまりよくおぼえていない。そのころ映画はテレビで観ていたし、それも熱心な視聴者ではなかった。だいいち映画を観に行く習慣がなかった。よく知らない得体の知れないものよりも、慣れ親しんだ漫画ばかり反読していたような気…