王と乞食

「高みに立たねば見えぬ景色もあるのだよ」
ーバタフライ・ジョー(『ピン★ポン』)

 

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 フィードバック面談での発見。ボスが微妙に若手をつかめていない。前のボスも、前の前のボスも、いってみればこれまでのボスは全員そうだ。なかには飛び抜けてすぐれたひともいたのに、そうなるのは、立場がかわって、見える景色がかわってしまうからだろう。

 

 5年めの欠点は仕事が遅いこと、丁寧だが遅いという。前のボスもそういっていたというが、嘘だ。テンプレートに無意識にあてはめたくなって、実際にそうしているだけである。

 

 あるいは半分はほんとうかもしれないが、半分は芝居だ。彼は生活残業をしておかねをためたいので、居のこる口実が必要であり、のこるためには仕事を急いではいけないのだ。

 

 実際、仕事が堅実なのは、彼自身の性格もあるが、急いでいないためでもある。したがって、いくら急かされても彼は仕事のペースを上げない。彼はミスをするのも嫌だし、根拠の見えない処理をするのも嫌だし、不確かな状況で仕事をすすめるのも嫌だからだ。それはそれで正しく堅実な姿勢であるから、ボスたちも口をはさめない。

 

 ためしにひとむかしまえの労務運用にもどして、残業枠を一気に減らしてみるといい。彼のアウトプットはかわらないはずだ。給金がさがって、モチベーションが下がるだけである。

 

 管理職になると残業概念がなくなるから、自分たちも通ってきたかもしれない道であるにもかかわわらず、このへんの機微がどうしても見えなくなるらしい。こうして管理職というのはすくなからず孤立していくのだろう。さぬきに来てじょじょにそれがわかってきた。

 

 身分にはそれに応じた権力と義務がついてまわる。たとえば、王さまが偉そうにしないと、責任を軽んじているように見られる。末端にいればエラそうせずにすむのでそうしているが、あとでどうなるか知れたものではない。

 

 ブーメランになるまえにおわりにしよう。チャオ!