不可忘

「・・・生き馬の目を抜く活気と快楽追求のあざとい欲望の錯綜によって膨張を続けてきたこの大都会では、「突然の大災厄」に対する防護措置とデザインが、あれほどくりかえし叫ばれながら、ほとんどの分野で未完成のままだったのである。

 

 だが、この事態を憂える者は少数の哲学者以外にいなかった。人々は手に入れたばかりの自由を貪ることに急で、現在の快楽の先にあるものを見通していなかった。その目新しさは、まだあらゆるユートピアの最大の敵―退屈―に侵されるまでには至っていなかったのである。」

小松左京日本沈没』第四章―