東方ラッシュ

 知り合いに毎日鉱水ばかり飲んでいる男がいた。彼はパンナというイタリアのミネラルウォーターがたいへん好きで、家の冷蔵庫を開けるとミルクやビールの代わりにバンナがつまっているという具合だった。

 

 そんな彼は食に関して一風変わった信念を持っていて、本人曰く「合理性」というのがそれなのだけれど、それがどうも普通のものとは思われないのである。

 

 例を挙げると、彼のレシピに納豆湯、というのがあって、これは名の通り納豆をただ混ぜてその上にお湯を入れてゴクゴク飲んでしまうというもの。僕がはじめてこの奇妙な飲物を目撃したのは彼の自宅においてであった。

 

 「この飲物の優れた点は」納豆を飲み干すと彼は言った。「良質な植物性たんぱくを手軽に摂取できる点にある」

 

 彼はベジタリアンではないがかなりの肉嫌いで、おまけに中華料理アレルギーというこれまた奇妙な病を抱えていた。これでグルメだったりしたら殆どどうしようもなくなってしまうところだが、幸いにして彼は食事をたんなる栄養摂取と捉えている節があったので、それで救われているところがあった。

 

 今はどうしているのか知らん。