Led Zeppelin

 飛行船と万年筆から『ツェッペリン飛行船と黙想』という本にいきあたった。

 

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 はずかしながら、上林暁という作家を知らなかった。どうも文学は敷居がたかくて食指がうごかない。

 

 濃淡でいえばあきらかに淡のほうのひとで、適度な表現で簡潔に視覚的な描写をする。語彙が多彩で、つかう分量がちょうどいい。一見、なんの変哲もない文章なのだけれど、緻密に練られた結果としてそうなっているのが伝わる。ことばの抽斗をふやす努力を10年単位で継続し、かつ文に対する美意識を磨きつづけないと、こうはならないのではないかとおもう。

 

 書き手自身があまりかんがえこまないところもいい。枕頭で繰るのにふさわしい感じがする。

 

 しいていえば、風刺や皮肉、警世的なところなどはない。高所大所から哲学的な何かを説くこともしない。劇的でもないし、機知に富んだしゃれもないし、おとし話でもない。

 

 とにかく派手さやケレンとは無縁である。著者自身も書いているとおり、ひとこと、地味といっていい。文学に対する控えめな真面目さがときどきあらわれるのみである。

 

 私小説作家だから、というわけでもないだろうが、個人史と、交友関係とを中心に、日常を描いていく。私小説作家なのに、というわけでもないだろうが、生活そのものを破天荒に芸術的にしていったひとではない。それなりにふつうでない目にもあっているし、貧苦も味わってはいるものの、平凡をまともに書いてそれがおもしろく読める。

 

 連想で筆を運んでいくよりは、見たものの実況で場をつないでいく。要するに日記なのだけれど、おなじ日記でも、永井荷風の『断腸亭日乗』などとはだいぶ趣がちがう。

 

 私は、上林さんに一票いれたいとおもった。以上、連絡おわり。