出張で特急に乗ったら自動ドアにつぎのように書かれていた。
閉まりかけたドアはそのまま閉まります。ご注意ください。
Please be careful. The door closes automatically.
含意:「ギリギリになったときにドアに手やカバンを挟んで開かせようとしないでね。そのまま閉まってしまうから、無意味だし、あぶないよ」
ロストイントランスレーションはどこでも起こる。日本の通訳者は優秀なうえに真面目なので、できるだけそうならないように努めてくれるものの、向こうの通訳者には「聞こえてきたものを訳す」だけのひともいるので、話者によって仕上がりに差がでる。
そういうときに英語いがいの共通語をはさまれると、ニュアンスをつかむのは飛躍的にむつかしくなる。フランコフォンとか、ルサフォンとか、いろいろあるが、ジャパフォンはないので、蚊帳の外のような気持になることもある。
機械翻訳のレベルが上がって、そういうこともじょじょにすくなくなって、ニュアンスや含意を全体との関係で把握して通訳できない者は淘汰されていくだろう。世の中ぜんたいにとっては向上なのだろうが、潤いがなくなるような気もする。
それにしても、ロストイントランスレーション、とカタカナで書くとだいぶ読みにくい。隔靴掻痒とか、御簾を隔てて高座を覗くといったニュアンスもあるけれど、それよりも、変換の過程で不可避に失われてしまうものを指したくなる。
いってみればエネルギーを変換するときにかならずロスがでてしまうようなものである。すなわち変換損失だが、映画字幕風に訳すなら「変換ロス」のほうが適切かもわからない。
どうでもいいことかもしれないが、清水俊二の『映画字幕五十年』は名著でおすすめ。以上、連絡おわり。