隅落とし

 ひとは伝えようとして書き、わすれようとして書き、名をのこそうとして書く。ほかにしようのないときも書くし、暇つぶしにも書く。いろいろだ。

 

 倉橋由美子は作中で「ひとはとべないときに書く」といっている。その通りのような気もする。

 

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「私はその任ではありません」

 

「そういうひとにやっていただきたい」

 

「私はその器ではありません」

 

「そういうひとにやっていただきたい」

 

「その方面はまるでわからなくて」

 

「そういうひとにやっていただきたい」

 

「革靴を履いたこともないんです。身に着けるものは時計でもうっとうしいくらいで」

 

「ローファーで結構。スケジュールは秘書に伝えさせます」

 

 こういう言いぐさは、いわれるほうはいくぶん迷惑ではあるものの、ひとのことばじりをとらえて「逆にいうと」や「だからこそ」を連発するより、はるかにマシではないかとおもう。

 

 こういうとき、有無をいわさない手札をそろえると相手に警戒されてしまうので、即興で、しぜんに、その場でたたみかけることである。この種の呼吸技は、こちらにほんとうに熱意がないと繰りだすことができないため、多少ムチャな条件であっても先方がOKしてくれることがある。ほんとうかyo!

 

 空気を読む必要があるという点では、隅落としよりは空気投げのほうが、名称としてはふさわしいかもわからない。なんの話?